【特集】高知・室戸の海賊バンド10年 / ネットで世界にファン拡大】

 高知県室戸市を拠点に室戸の海賊≠名乗るロックバンド「ピストルジャズ」が、世界にファンを広げている。フェイスブック(FB)やユーチューブ(YT)の波に乗り、サイトで無料公開した音源が支持され、動画のBGMに使われることも。地元でのライブと並行し、ネットの手応えが励みとなり、活動は10年目を迎えた。業界関係者は「地域に根ざす『唯一無二』のバンド」と評価する。


 ▽生きた証し残したい
 リーダーでギターの瀬戸崇生さん(45)は漁協職員、ベースの森本正文さん(46)は漁師、ドラムの東野敦夫さん(46)は自動車整備士だ。家族を持ち、働きながら、バンドを続けてきた。
 室戸市佐喜浜出身の3人は、子どものころからの遊び仲間。共通の趣味はオートバイ。大人になると、年1回、イベントでバンド演奏していた。
 結成は2008年1月。この時期、瀬戸さんは、同級生が相次いで亡くなったことに衝撃を受け、仕事と家を行き来するだけの生活に疑問を感じ、「生きた証しを残したい。バンドを真面目にやろう」と提案。2人は快諾した。
 「ピストル」は攻撃的な音をイメージ。スラングで熱狂という意味もある「ジャズ」と組み合わせた。バンドのコンセプト、どくろ印のステッカーやロゴのデザインは瀬戸さんが担当。ひずんでとがったギター、荒々しいベース、ジャズを意識した多彩なドラムで織りなす、ボーカルなしの約20曲をそろえた。


 ▽CD郵送先20国超
 練習場所は東野さんの修理工場の一角。機材は置きっぱなしで、音も好きなだけ出せる。自分たちの音楽に集中して取り組める、都会では考えられない理想的な環境だ。
 利益を得ることは全く考えていなかった。音源をCD化し「聴いてもらえるならば」とライブの際、無料配布した。
 活動開始後すぐに、米国の音楽サイト「マイスペース」に動画、音源、画像をアップ。10年からは世界的に拡大していたFBに軸足を置いた。
 海外はまず09年、ドイツの音楽サイトが反応。米英、ブラジル、カナダ、ポルトガル、ポーランド、ベルギーのラジオやネットラジオ、サイトで紹介された。CDの郵送先は20国超に及んだ。
 ネットで彼らを知ったポルトガルのレコード会社が、アルバム制作を打診。12年1月から無料でダウンロードできるミニアルバムを発表した。
 ネット動画のBGMに使われ始めたのも12年から。現時点で、YTに30件以上アップされている。東野さんは「自分の動画に使うのは、本当に気に入ってくれているということ。信じられないほど、うれしい」と語る。
 15年11月には、東京のインディーズレーベル「ウルトラ・ヴァイブ」から国内向けのアルバムを出した。16年1月には、英国のパンク雑誌が「攻撃的、刺激的で、セクシー」と紹介するインタビューを載せた。


 ▽“唯一無二”の存在
 室戸市の人口は4月末で約1万4千人。さらに減少傾向にある。それに負けず、室戸を盛り上げようと昨年、若手が始めたのが「室戸マグロックフェス」だ。瀬戸さんたちは、企画段階から関わった。5月27日、室戸市運動公園相撲場で開かれた第2回のロックフェス。司会者が「紹介は要らないよね」と叫ぶと、瀬戸さんのギターがさく裂。緊張感のある重厚な演奏が、観客200人超を圧倒した。運動公園の回りに住宅はなく、ロックフェスは午後10時過ぎまで続いた。
 活動10年について森本さんは「悪友のようなもの。本当に邪魔だ」と笑いながら、バンドへの愛着を語った。
 歌手のあがた森魚さんのマネジャー経験があり、打楽器奏者の松島弘さん(56)は3年前、室戸に移住し、パーカッションでサポート。「地方から世界に認められるいいサイクルにある。新しいバンド活動の可能性を感じる」と評価する。
 ウルトラ・ヴァイブのディレクター笠島寿之さん(35)は「自分たちの寄って立つ場所がないミュージシャンが多い中、地元の寺でも演奏できる彼らには、地域性がある。唯一無二≠フ存在だ」と強調した。(共同通信=高知支局・西野秀)







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